ホームズの負け戦ーボヘミアの醜聞:コナン・ドイルー

ホームズが女性相手に完敗した

こんにちは。管理人のエスポワールです。今回はコナン・ドイルの作品から「ボヘミアの醜聞」を紹介します。

作品の主人公はもちろんシャーロックホームズですが、本作品ではホームズが受けた依頼に対して任務を完遂できません。作者のコナン・ドイルはホームズシリーズとして60作品を発表していますが、ホームズが言い訳無用の完敗を喫した作品は本作品だけではないでしょうか。ホームズの負け戦とホームズを打ち負かした女性、アイリーン・アドラーとは何者なのかが本作品の見所です。

尚、「ボヘミア」とは現在のチェコ西部のことです。上の写真は20112年に撮影したボヘミア王国の居城であったプラハ城とカレル橋です。

ボヘミア国王が過去の交際相手であるアイリーン・アドラーとの写真を取り戻すためにホームズに依頼する

それでは作品のあらすじを紹介します。

1888年3月20日、結婚して開業医として働くワトスンは往診の帰途に独身時代に同居していたホームズの家を訪問する。旧友を歓迎するホームズはワトスンに上質な紙で書かれた匿名の調査の依頼のアポイントの手紙を見せて、間もなく依頼人が訪問してくると話す。やがて立派な馬車に乗ってマスクをした大柄な男性が姿を現す。その男性はボヘミア王国の代理人であるフォン・クラム伯爵と名乗るが、ホームズはその男性がボヘミア国王本人であることを見抜く。伯爵は自身が国王本人であることを認め、依頼の内容を説明する。その依頼とは、国王は近くスカンジナビア国の王女と結婚することが決まっているのだが、過去に交際していたアイリーン・アドラーという女性が王女に国王とのツーショットの写真を送り付けると脅迫されて困っているという。写真が送られてしまうと交際は破談となってしまい、王は写真を取り戻すために人を雇って家を探し出して空き巣を試みるも上手くいかない。そこで王自身が写真を取り戻すべくホームズに依頼に来たのだった。

データもなしにやみくもに理論を建てるのは愚の骨頂

下記に印象に残った個所を引用します。ホームズの元の届いた手紙の差出人や内容についてワトスンと議論する場面です。

「判断の根拠となるデータもなしに、やみくもに理論を立てるのは、愚の骨頂だよ。それをやると、事実にそって理論を立てるのではなく、つい事実のほうを理論に合わせてねじまげるようになる。

このように、ホームズは手紙の内容について話をする前に、手紙そのもの、つまり、紙質や透かしに浮かび上がった製造業者の名前、文章の書き方からドイツ人によるものだと推理するのです。

つまり、いくらでも虚偽の記載が可能な手紙の内容や差出人に関する考察は判断の根拠となるデータがないという理由で後回しにしているのです 。

セリフの内容のクレバーさだけでなく、文章の分かりやすさという点で、いかにもホームズらしいセリフだなと感じます。おそらく、同じような内容でもファイロ・ヴァンスやエラリークイーンのセリフであれば恐ろしくイメージの湧かない具体例と難しい単語が出てきそうです。

探偵が尾行される恐怖とそれに向き合う責任

結局、本作品では最終的には王にとっては満足できる結果になったものの、ホームズの作戦は失敗します。しかも、王との写真が狙われていることがバレているだけでなく、実行犯のホームズが尾行されて身元まで明らかにされてしまうという失態を犯してしまいます。

実は私も尾行がバレただけでなく、逆に追いかけられるという失敗をしたことがあります。これは本当に恐怖そのものです。追いかけてきた人間が何をしてくるか分かりませんから。 そして、このような失敗は探偵のメンタルを崩壊させます。ですから、発覚した後は別の現場に出ても発覚した恐怖と屈辱が頭から離れない為、集中力の欠けた調査になってしまうのです。

もちろん、調査が発覚するというのは非常にまれなケースです。しかし、発覚してしまう恐怖やプレッシャーに向き合えない探偵は探偵として失格です。尾行される恐怖を知っているからこそ自分が他人を尾行するリスクの大きさや仕事に対する責任を背負えると思うのです。

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