探偵の力量により家出人が見つかる可能性は10%未満-家出した死体:山村美紗ー

家出人を発見する可能性が低くても探偵事務所は真面目に探してくれる

こんにちは。管理人のエスポワールです。今回は山村美紗(1934-1996)の作品、『家出した死体』を紹介します。

本作品は探偵事務所の調査員、片山由美を主人公とする、短編推理小説です。今回の由美の仕事は家出調査です。

作品中のセリフにも出てくるのですが、依頼者が想像する以上に家出した人間が探偵の力量によって発見される可能性は極めて低いです。ただ、犯罪性がない限り単に家出しただけでは警察が動くことはありません。つまり、緊急性が高いけれど犯罪性がない場合に探偵事務所は発見する可能性は低くても頼りになる存在ともいえるのです。

家出した人物があっさり見つかる点が興ざめ

それでは作品を紹介します。

作品の舞台は作者のホームグラウンドでもある京都。家出した人物は織物工場の経営者である岩田義雄。妻の映子からの依頼である。映子によれば元女性従業員と一緒にいるのではないかという情報から、森麻智子という人物を調査していく中で、義雄が麻智子の家に転がり込んでいるところを発見する。由美が立会の下、映子に麻智子宅にいる義雄を確認させて調査は終了したはずなのだが、翌日帰ると約束した義雄が結局帰宅せず、麻智子宅から麻智子の死体と、麻智子の家の庭から義雄の遺体が発見されてしまう。

毒殺で主人公の周辺の人物が次々と死んでいくのはリアリティに欠けているのですが、そのことよりも、物語の要である家出人があっさり見つかってしまう点が少し興ざめです。家出人が見つかるまでの材料や手掛かりを積み重ねていくプロセスを期待していたのですが、物語の方向性が私の期待と全く違っていました。

因みに、探偵事務所の仕事の9割は浮気調査なので、探偵の私でも家出調査に関しては経験豊富とは言えません。家出調査に関しても様々なケースがあるので、契約段階で発見可能性を明言することはないのですが、家出した本人が当日、翌日に帰宅するケースも4-5割程度あります。家出調査が失敗する可能性も4-5割程度。探偵の力量によって発見に至るケースが1割程度ではないかと思います。

因みに、私が発見した家出人は5年間で1人しかいません。

「盗聴器はいかなる場合でも使用しない」それが、まともな探偵事務所のルール

下記に印象に残った箇所を引用します。由美の相方である田沢のセリフです。

「(中略)盗聴器はすぐにはずすようにというのが所長の方針だから。見つかったらやっぱり違法だからね」

調査目的での盗聴器の使用はプライバシーの保護の観点からいかなる場合でも禁止というのが私の勤務していた事務所のルールでした。ただ、法律を守るのは当然なのに、「当社では法律を守ります!」とわざわざアピールする探偵事務所は元同業者として、とても胡散臭い感じがします。そんな表記を見る度に「こんな感じだから探偵事務所は社会的な評価が低いのだな」と感じてしまいます。

ですから、特殊機材を自慢する探偵事務所は嫌いではないのですが、盗聴器の利用の可能性に触れた時点でアウトです。ただ、「盗聴器の発見」と「盗聴器がないことの確認」は適正な業務となります。

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