西村京太郎は私立探偵だった過去を持つ
こんにちは。管理人のエスポワールです。今回は西村京太郎(1930-)の代表作、寝台特急(ブルートレイン)殺人事件(1978)を紹介します。
私も知らなかったのですが、作者の西村京太郎は元私立探偵です。つまり、私の大先輩になります。作品中に元探偵であることを感じさせる描写があるのか少し気にしつつ作品を読みました。また、探偵の経歴を持つ有名な作家には他に江戸川乱歩がいます。
本作品はトラベルミステリーの先駆け
作者はこの作品のヒットによりトラベルミステリーという分野を開拓していくことになります。しかし、本作品は寝台列車の時刻表トリックが偽アリバイの証明として機能しているものの、旅行先や観光地を舞台にした作品という訳ではありませんでした。尚、ブルートレインとはJRが運行していた寝台列車の総称で、車体の色が青いことに由来しています。
それでは作品を紹介します。
週刊エポック』の記者である青木はブルートレインの魅力を記事にすべく、東京駅発の「はやぶさ」に乗車する。
青木は隣のコンパートメントに乗車した薄茶色のコートを着た女性の写真を撮影し、取材を申し込むが冷たく断られてしまう。夕食時に再度取材を申し込むも、やはり女性の態度が冷たい。
寝台列車はさらに西へと進み、ふと眠りから覚めた青木は異変に気付く。隣のコンパートメントに乗っているはずの女性が別の女性に入れ替わっているのである。また、夕食時に知り合った弁護士の高田もその車両に乗り合わせておらず、そこには別の男性がいた。
そして、青木は時刻を確認した時に乗車している車両そのものが変わっていることに気付き、状況を車掌に確認しようとした際に後頭部を殴打され気を失う。
一方、翌日東京では薄茶のコートを着た女性の死体が多摩川で発見された。そんな事件の解決に警視庁捜査一課の十津川警部らが取り掛かるのだが、捜査を進めていく中で、二年前に起きた五億円融資詐欺事件との関連が浮かび上がってくるのであった。
特殊な状況設定が無理なく読者を物語の世界に引き込んでいく
非常にテンポよく読める文章の読みやすさがすばらしいです。
特に、前半部分の状況設定が読者を物語の世界に強く引き込ませています。そして、後半部分のスリリングでスピード感のある展開も推理小説としては新鮮さが際立ちます。また、雑誌記者の青木からの視点と十津川警部からの視点で物語が進んでいく点も違和感なく読めます。
尚、犯人グループの人数の多さと、殺人事件の予行演習をするほどの用意周到な計画性に不自然さを感じますが、その理由は物語の終わり方と最終盤のボリュームの不足が原因かもしれません。
しかし、作品全体を見ればその辺りの消化不良を補って余りあるほどの爽快な作品だと感じます。
部下の桜井刑事の尾行が発覚する
以下に印象に残った箇所を引用します。
十津川警部の部下の桜井刑事が弁護士の高田を尾行します。そして、桜井刑事が高田が入店した宝石店の前で張り込むのですが、閉店まで高田が現れない為、店員に様子を確認する場面です。
桜井「さっき、高田という弁護士が、入ったはずなんだが」
店員「社長のお客さんでしょう」
桜井「そうだ。その人は、まだいるのかね?彼に急用があるんだが」
店員「もうお帰りになりましたよ」
桜井「帰った?どこからだ?」
店員「裏口から出ていかれました」
桜井「裏口があるのか?」
店員「めったに使いませんが、あの方は、怖い男につけられているからといって、裏口から出ていかれたんです」
これが尾行の発覚という、探偵がやってしまうミスの中でも最悪な部類に入る失態です。高田を補足できなかったことは裏口の有無を確認していなかった刑事のミスなのですが、裏口の有無を確認したとしても、既に調査が発覚しているのであればお手上げ状態です。
また、実際の調査の現場でも、相手が警戒している状態では仮に複数の人員で尾行をしたとしても調査が発覚するときは驚くほどあっさり発覚します。
絶対にばれない張り込みや尾行などありえません。