日本初の推理小説の犯人は中国人-無惨:黒岩涙香(読み:くろいわるいこう)-

翻案家によって日本初の推理小説が発表された

こんにちは。管理人のエスポワール です。今回は日本初の推理小説である「無惨:黒岩涙香」を紹介します。

本作品は世界初の推理小説である『モルグ街の殺人』から47年後の1889年に発表されました。作者である黒岩涙香は外国の小説を日本語に置き換えて発表する、翻案(ほんあん)家でした。翻案とは外国作品の内容の大筋を変えずに作品の舞台を日本に置き換えたり、人名や地名を日本人になじみのある固有名詞に変更することです。現在では著作権侵害に相当しますが、当時はお咎めなしでした。尚、本作品は著者のオリジナル作品になります。

日本初の推理小説の犯人は中国人

それでは作品のあらすじを紹介します。

作品の舞台は明治時代の東京。築地に当時存在した海軍施設付近の河川(恐らく墨田川)で無惨な状態で男性の死体が発見される。最寄りの警察署に勤務する中年の刑事巡査の谷間田(たにまだ)と新人の大鞆(おおとも)が死体の状況から、犯人を推理していく。そして、犯人の特定の際に大きな手掛かりとなったのは、死体が握っていた犯人のものと思われる頭髪だった。その後、事件を統括する上司の荻沢に、谷間田と大鞆がそれぞれ推理する犯人をプレゼンしていく。

作品の大まかな流れは以上です。それではネタバレになりますが、犯人を明らかにします。作品の犯人は志那人(中国人)であり、被害者は犯人の弟でした。殺人の動機は兄弟げんかと異性関係のもつれによるものでした。

作品としてはモルグ街の殺人よりも小説として格段にまとまっていると感じます。特に上篇(疑団)・中篇(忖度)・下篇(氷解)という3部構成は小説の展開を分かりやすくしています。上篇で事件の概要の説明、中篇では谷間田と大鞆による事件の推理、そして、下篇で犯人と事件の背景や動機が明らかになります。

日本初の推理小説と世界初の推理小説の3つの共通点

そして、世界初の推理小説であるモルグ街の殺人との共通点は3点あります。

1つ目は読中に犯人が誰なのかを推測する余地が全くない点。被害者が握っていた頭髪に関しても、作中に登場した時点で読者が犯人を特定するには作品内に材料や伏線がありません。読者は事件を明らかにしていく大鞆の推理をただ受け入れるしかないのです。この辺りが推理小説として未熟というか完成されていない部分なのだなと感じます。

2つ目は犯人が自国民ではない点。モルグ街の殺人の犯人がまさかのオランウータンだったことは悪い意味で衝撃的でした。無惨の犯人も日本人ではなくて中国人でした。しかも、被害者の握っていた頭髪の状態から犯人の中国人を導き出すまでに論理に穴があります。そして、犯人が外国人という設定は、登場人物が外国人だらけというものでない限り、現代の推理小説ではほとんどないと思われます。外国人に対して差別的な描写は欧米の作品にも一部見られます。

3点目は死体の描写がやたら詳しく描写されている点です。本書も題名の「無惨」にある通り、冒頭から被害者の死体の描写がやたら詳しいのです。当時の探偵小説はホラー小説や猟奇作品の傍流的な位置付けなのかと感じます。

探偵の仕事で死体を見ることはない

また、実際の探偵の仕事では浮気調査をする限りにおいては実際に「死体」を見たりすることはありません。しかし、人探しの場合はターゲットの自殺による発見によって調査が終了することがまれにあります。自殺によって調査が終了した時、事務所内の空気はかなり気まずくなってしまいます。

こちらの写真は作者の黒沢涙香の墓です。場所は横浜の總持寺にあります。

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