1884年にホームズが登場する
こんにちは。管理人のエスポワールです。今回、シャーロック・ホームズシリーズの最初の作品、「緋色の研究」を紹介します。
本作品は1884年に発表された作品ですが、その頃の日本は富国強兵をモットーに近代国家を目指していた頃になります。
作者のコナンドイルは推理小説に対する思い入れは少なかったよう
ホームズと言えば名探偵の代名詞と言ってもよいくらい世の中に浸透していますが、作者のコナン・ドイルはシリーズ化するほど長く推理小説を書くつもりはなかったらしく、むしろ歴史小説の分野が自己の本分だと考えていたとのことです。
本書は本業である医師の仕事の合間に執筆され、職業作家として一本立ちしていない頃の作品です。尚、作品の発表当時は特に大ヒットという訳でもなかったということを付け加えておきます。
本作品は2部構成、そして、ホームズの出番は少ない
本書は2部構成となっています。
1部はワトソンとホームズの出会いから、イーノック・ドレバー殺人事件、及び、ジョゼフ・スタンガスン殺人事件と事件の犯人であるジェファスン・ホープが特定されるまで。
2部は婚約者をドレバーとスタンガスンに奪われ、復讐すべくアメリカ国内からヨーロッパ大陸までを転々とするホープの執念の半生が描かれています。
1部と2部ではかなりテイストの違う作品で、当然、推理小説らしいのは1部。2部のホープによる犯行に至るまでの回顧録は歴史小説や恋愛小説を読んでいるような感覚にもなります。
そして、作者の作品にかける情熱を感じるのは圧倒的に2部の方で、読後、全体を通して主人公のホームズの出番がそれほど多くないことに気付きます。世界的な名探偵のデビューは非常に地味だったのです。
合理性に欠けるドレバー殺害
また、本書における推理小説の肝というべきドレバー殺害の詳細は非現実的でした。
具体的には、それぞれ外見を等しく整えた毒薬と人体に無害な薬を用意し、お互いがどちらか片方を同時に飲み込むというやり方で、ドレバーの方が毒薬を飲み込み死亡したというもの。
当時、酩酊状態であったドレバーを殺害することはホープにとって容易だったはずで、50%の確率でホープ自身も命を落とす可能性がある為、必ずドレバーを殺害しなければいけないホープからすると、このやり方はかなり合理性に欠けています。
よって、読者が読中に犯行手段を割り出すことは不可能です。
ホームズが尾行に失敗した
以下、作中で最も印象に残った箇所を引用します。
玄関の掛け金をはずすかちっという音が聞こえてきたのは、かれこれ十二時になろうという頃だったが、部屋に入ってきたホームズの顔を見たとたんに、私は尾行が不首尾に終わったことをさとった。
このように、実は作品中に老婆に変装したホープの友人の尾行にホームズは失敗しているのです。
世界的名探偵のホームズの失敗が描かれている点が非常に印象深く、決してホームズがパーフェクトな探偵ではないことに好感を持ちます。そして、作者が尾行の難しさを知っているのだなとも感じます。
プロである探偵も当然尾行に失敗する
状況にもよりますが、探偵が一人で調査対象者を尾行した場合、調査対象者の捕捉から目的地まで完璧に終日尾行できる確率は、私の場合は75%ほどです。
また、尾行の上手な方でも成功率はおよそ90%くらいではないでしょうか。失敗しない尾行調査はあり得ません。
だから、「プロの探偵は尾行に失敗しない」というようなことを書いている探偵事務所は信用してはいけないのです。