殺人者はいつやめればいいのか潮時を知らないーABC殺人事件・アガサ・クリスティーー

推理小説の世界で「女王」と言えばアガサ・クリスティーのこと

こんにちは。管理人のエスポワールです。今回はアガサ・クリスティーのABC殺人事件を紹介します。

推理小説の世界における「女王」と言えばアガサ・クリスティーです。「女王」と称される理由は作品の発表数や売り上げが評価されただけでなく、推理小説における物語の「スタイル」、「形式」といったものの確立に貢献した点にあります。

例えば、事件における被害者や場所や殺害方法等がある一定の法則に従って決まっていく「見立て殺人」のようなスタイルは本作品の大きな特徴であり、以降の作品に大きな影響を与えています。

このような作品の形式自体は今となっては当たり前で少し古臭く感じることもあるのですが、100年前は斬新な手法だったのです。

また、推理小説のオチとして、「登場人物全員犯人」とか「登場人物全員死亡」とか「物語の語り手が犯人」といった手法を生み出したのもアガサ・クリスティーです。

ただ、それらのオチを真似しても推理小説の世界では「○○はアガサクリスティーのオチを真似した卑怯者だ」のような風潮は生まれません。理由は推理小説の世界では「オチを真似しただけでは面白い作品が生まれない」ことが明白であるだけでなく、「オチを真似されることが名誉」のような認識と先人達への敬意があるからです。

「見立て殺人」に関しては以下の作品を紹介しています。

「登場人物全員死亡」に関しては以下の作品を紹介しています。

「地名の頭文字ABCそれぞれの場所でイニシャルABCの人物が順番に殺害される」それがABC殺人事件

それでは作品のあらすじを紹介します。

ポアロはABCと名乗る人物から「アンドーヴァーを警戒せよ」と殺害予告のような手紙を受けとる。相棒のヘイスティングスは「たちの悪いいたずらだ」と相手にしないが、実際は手紙の予告通り、アンドーヴァー(Andover)の街でアリス・アッシャー(Alice Ascher)が殺害され、現場には「ABC鉄道案内」が添えられていた。

次に、ポアロはABCから第2の殺害予告の手紙を受け取る。2番目の場所はベクスヒル。ポアロは警察と協力して警戒するも事件が発生。手紙の予告通り、ベクスヒル(Bexhill)の街でベニー・バーナード(Bety Barnard)が殺害され、現場には「ABC鉄道案内」が添えられていた。

そして、ポアロはABCから第3の殺害予告の手紙を受け取る。3番目の場所はチャーストン。ただ、今回は手紙が事件予告日に届いた為にポアロは対策がとれずに事件が発生。チャーストン(Churston)の街でカーマイケル・クラーク(Carmaishael Clarke)が殺害され、現場にはまたもや「ABC鉄道案内」が添えられていた。

さらに、ポアロはABCから第4の殺害予告の手紙を受け取る。4番目の場所はドンカスター。ポアロたちは事件を防止するために現場へ向かうも事件が発生。しかし、ドンカスター(Doncaster)の街で殺害された犠牲者の名前はジョージ・アースフィールド(George Earlsfield)。「D」の事件では今までの規則性から外れてしまう。

一方、警察が愉快犯の犯行であると捜査方針を進めている最中に、アレクザンダー・ボナパード・カスト(Alexander Bonaparte Cust)と名乗る人物が事件の犯人であると自首してくる。警察はカストの自宅を捜査して凶器と思われるナイフと事件現場に残された「ABC鉄道案内」を発見。警察は事件が解決したと安堵するのだが、ポアロは犯人の人格とカストの人格が一致しない点を疑っていた。

つまり、アルファベット順に地名とイニシャルが一致する人物が殺害されていくという流れが本作品の大筋です。

浮気をしている人のバランス感覚の歪みの例、「バレなければ悪いことをしてもよい」

次に本作品において印象に残った箇所を引用します。ポアロが犯人の心理を分析しているときのセリフです。

「(中略)殺人者はつねにギャンブラーなんです。それに、多くのギャンブラーと同じように、殺人者はいつやめればいいのか潮時を知らないことが多いのです。犯罪をするたびに、自分の能力にたいする評価が高くなります。バランス感覚がゆがむ。」

人間性としてのバランス感覚のゆがみは浮気をしている人間にも少し当てはまります。

浮気をしている人の尾行をしていると、浮気の有無意外に「この人少しおかしいのではないか」と感じることがあります。仕事仲間と一緒だったり、周囲に人がいるときは問題がないのですが、一人になったとき少しおかしくなるのです。具体的には以下の通りです。

  • 歩行中の信号無視が多い
  • 運転中の携帯電話や歩きスマホが多い
  • 空き缶などゴミをのポイ捨てする

結局、人前では立派な大人なのに、周囲に誰もいない場面では「バレなければ少しくらい悪いことをしてもよい」という感覚が抜けないのだと思います。

だから、「本人は浮気をしていても相手にバレなければいい」と思ってそうだと探偵の立場から感じるのです。本当はバレているのにもかかわらず。

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