世界初の推理小説はエドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』
こんにちは。管理人のエスポワールです。今回は世界初の推理小説、『モルグ街の殺人 エドガー・アラン・ポー著小川高義訳』を紹介します。
「世界初の推理小説でも探偵は変人なのだな」というのが私の感想です。
作者のエドガー・アラン・ポーはアルコール中毒者
まず、簡単に作者の紹介から。作者のポーは1809年にボストンで生まれます。幼少の頃に両親を失うも、学業は優秀だったそうです。成人後はアルコール中毒でギャンブル依存症。本作品は1841年、著者が32歳の時に編集に参画していた「グレアムズ・マガジン」に掲載したものです。
そして1849年、ポーはアルコール中毒で40歳で亡くなります。以下に作品の概要をまとめます。
分析とは何か
分析を好む人間とは、どんな人間なのだろう
世界初の推理小説はこの一文から始まります。以後、「分析力」という抽象的なテーマに関する考察が続きますが、その内容を深く理解する必要はありません。
ただ、本書によれば
- 分析家は謎や奇問や絵文字を好む
- 計算は分析ではない
- 法則を超えた領域で分析家の技量は発揮される
- 発明は空想から始まり、真の想像には分析が伴う
ということだそうです。繰り返しになりますが、この辺りは理解不十分でも問題ありません。そして、作中に、
これからの物語は、右の所説への参考として読めるのではないかと思う
とあります。この一文から物語が本格的に始まります。つまり、「分析の定義や意味は難しく書いたけれど、これから書く物語を参考に分析というものを理解してほしい」ということなのでしょう。
世界初の探偵は変人だった
前置きが長くなりましたが、小説の本題に入ります。
まず、主要な登場人物は、名前の登場しない「私」と、「私」の同居人であり、超人的な分析力を持った、「デュパン」。
デュパンは名家の出身でありながら、経済的に厳しい境遇に置かれています。そして、デュパンは昼間はカーテンを閉めて香りの強いロウソクの光で読書し、夜は散歩をする。さらに、瞑想を好むというような少々変人なのです。
推理小説において探偵は変人が多いのですが、最初の推理小説でも探偵は変人でした。理由は、作品の創作において、探偵が変人の方が物語としての展開が豊富だからかもしれません。そして、もう一人。「私」です。作品は「私」を視点に話が進んでいきます。そして、「私」は常識人です。「変人」がいるからには「常識人」もいなければなりません。
読者は常識人の視点から変人である探偵の魅力に惹きつけられていきます。
事件の概要と突如出てきた犯人のオランウータン
そんな「私」とデュパンはパリのモルグ街で起きた猟奇殺人を新聞記事で知ることになります。ここから本格的に推理小説らしくなるのですが、話の詳細はここでは触れません。
そして、世界初の推理小説の犯人はオランウータンです。この展開ははっきり言って反則です。デュパンが犯人を導き出すプロセス以前において、オランウータンや動物が犯人である伏線が全くないのです。当然、犯人のオランウータンに殺人事件を起こす明確な動機もなく、殺害プロセスの説明にも合理性が欠けています。
そして、根本的に作品中の出来事は殺人事件ですらなく、事故なのです。
普通に読める推理小説の誕生まで少し時間が必要
世界初の推理小説は現代の小説と比較すれば、物語の組立てやストーリーの展開、キャラクターの魅力、トリックなどが非常に未熟です。しかし、推理小説というジャンルを生み出した貢献の大きさは計り知れません。ただ、普通に読めるレベルの推理小説が出てくるまではもう少し時間が必要です。
現実の探偵には変人は少ない
ちなみに、現実の探偵の世界では変人は多くないと思います。ただ、探偵事務所に入社してすぐに辞めてしまう人には変わった方が多かったような気がします。イメージと現実のギャップが埋められなかったのだと思います。