エラリー・クイーンはダネイとリーの共著というスタイル
こんにちは。管理人のエスポワールです。今回はエラリー・クイーンのデビュー作「ローマ帽子の秘密」を紹介します。
エラリー・クイーンはフレデリック・ダネイ(1905-1982)とマンフレッド・ベニントン・リー(1905-1971)のペンネームです。つまり、エラリー・クイーンの作品はダネイとリーによる共著というスタイルをとります。ダネイが構成・トリックを担当し、リーが文章をまとめるという役割分担がありました。
デビュー作の「ローマ帽子の秘密」は世界恐慌が起きた1929年に発表されました。本作品はニューヨークのローマ劇場で起きた殺人事件の被害者の帽子の行方が肝になる作品です。少しややこしいのですが、決して「ローマ帽子」というローマ風(イタリア風)の帽子が存在する訳ではありません。
また、本作品では主人公のエラリー・クイーンが登場する訳ですが、物語は父親のリチャード・クイーンを中心に話が進み、息子のエラリーが解決の提案・アドバイスをするという立ち回りです。作者はデビュー作の発表段階では以降の作品で、息子のエラリーが活躍する展開を想定していなかったのかもしれません。
多すぎる登場人物と意外過ぎる犯人
それでは作品のあらすじを紹介します。
作品の舞台は192x年のニューヨーク。連日満員のローマ劇場で悪徳弁護士のモンティ・フィールドが殺害される。事件後、劇場の出入り口を封鎖して観客・従業員を拘束し、ニューヨーク市警のリチャード・クイーンとエラリー・クイーン親子が登場する。捜査を進めていく中で、以下のようなことが判明した。
- 被害者はガソリンから容易に生成可能な毒物による殺害であること。
- 被害者が直前まで所持していたシルクハットが紛失していること。
- 劇場がほぼ満席にもかかわらず、被害者の周囲が空席であったこと。
以降、被害者宅及び勤務先の関係者、劇場にいた被害者の関係者、劇場のスタッフへの聞き取り調査をリチャードとクイーンが進めていく。
結局、犯人が判明するのですが、肝心の犯人が意外過ぎて驚くよりも、「え、誰だっけ?」というレベルです。殺人の動機が不明瞭という以上に、犯人のキャラクターそのものがぼやけてしまいました。読後に振り替えると、やたら登場人物が多すぎる事と、結果的に事件の真相と関係のない記述が多い点が犯人像をぼやけさせていた事に結びついたのだと推測します。
タクシーで尾行するコツや難しさ
以下に、作品中最も印象に残った箇所を引用します。リチャードの部下のヘイムストロングが状況を電話で報告する場面です。
時間に余裕がないので、簡単に言いますが、わたしは午前中ずっと、アンジェラ・ルッソの尾行で苦労したものの、無駄骨ではなかったようです。三十分ほど前、彼女はわたしを撒いたつもりで、タクシーにとび乗り、ダウンタウンへ向かい…いいですか警視ー今から三分前に、ベンジャミン・モーガンの事務所に入っていったんです!
このように、本作品ではタクシーで調査対象者を尾行する場面があるのです。作品中ではタクシーに乗られても無事に追い切りましたが、現実のタクシーでの尾行は難しいというよりも、成功の可否は運次第という感じです。
もっとも、「調査対象者がタクシーに乗ってしまって見失いました」というだけでは探偵としては少し物足りません。調査対象者がタクシーを拾う前に、車両が流れる上流方向から先にタクシーを拾う努力が必要です。
つまり、調査対象者がタクシーを拾うまでに先にタクシーを拾って待機します。その後、調査対象者がタクシーを拾って乗車したら再びタクシーの運転手さんに「前方のタクシーを追ってください!」と頼んで追尾してもらうのです。
そこから先は運次第です。赤信号で停車すると思ったら行かれてしまうこともあるし、単に連続で右折・左折して見失うこともあります。もちろん、調査対象者が乗ったタクシーの運転手に怪しまれることもあります。
当然、安全運転第一をモットーとする多くのタクシードライバーからすると、探偵の尾行に付き合うような運転は迷惑です。だから、結果的に追えなくても当然ドライバーに文句は言えませんし、ここまでやれば上司からのお咎めもありません。
しかし、過去に一人だけ「あれ、もしかして探偵さんですか?任せてください!こういうの一度やってみたかったんですよ!」と言って嬉しそうに対応してくれた、頭のネジが飛んでいるタクシードライバーに遭遇したことがあります。この時の尾行は成功しましたが、タクシーに乗られても追い切れる確率は5-6割程度ではないかと思います。
とにかく、タクシーでの尾行は運の要素が大きいので、最低限の決まり事や努力をすれば、あまり神経質にタクシー対策をしても仕方がないというのが現場の感覚に近いと思います。