主人公のブラウン神父の本名は明らかになっていない
こんにちは。管理人のエスポワールです。今回はブラウン神父シリーズで有名なチェスタートンの作品「青い十字架」を紹介します。
本作品は1911年に発表された、ブラウン神父が初めて登場した作品です。尚、ブラウン神父の本名は作品中明かされていません。過去に多くの犯罪者の懺悔を聞いた経験から、犯罪手口に詳しいというのがブラウン神父の推理の切り口、特徴です。
また、作者のチェスタートンは評論家としての活動も有名です。その為なのか本作品にも知識を見せびらかすような一面があり、「理性とは何か」のような哲学的な話も出てきます。しかし、この辺りはあまり真剣に読み込み過ぎない方がストレスが溜まらないように思います。
ブラウン神父と大泥棒フランボウを追っていく名探偵ヴァランタン
作品のあらすじを紹介します。主な登場人物は3名。
ヴァランタン:大泥棒フランボウを追うパリ警察の名探偵。ヴァランタンの視点から作品は描かれている。
フランボウ:ヴァランタンに追われる体の大柄な泥棒。神父に変装し、青い十字架を奪おうとブラウン神父に近づく。
ブラウン神父:フランボウに狙われている青い十字架を持つ小柄な僧侶。
パリ警察のヴァランタンはフランボウを追ってイギリスまでやって来る。途中、ヴァランタンは同じ電車に乗り合わせた「純銀製の青い十字架を持っているんだ」と言いふらす小柄な僧侶に対して、あまりそのようなことを周りに言うべきではないと注意する。そんな挙動不審な僧侶こそブラウン神父であった。ヴァランタンはリバプールで下車後、ホテルでコーヒーを飲んだ際、砂糖と塩が入れ替わっているいたずらに気付く。店員は体の大きな僧侶と小さな僧侶の二人組の仕業ではないかと疑い、ヴァランタンに彼らの向かった先を教える。ヴァランタンは大きな僧侶はまさしくフランボウだと確信する。以降、彼ら二人の数々のいたずらを足跡として二人の行方を追っていくヴァランタンはようやくフランボウとブラウン神父を捕捉する。人気の無い場所まで来たフランボウは正体を明かしてブラウン神父に十字架をよこせと脅すのだが、ブラウン神父の手元にはすでになかった。しかも、ブラウン神父は自分たちが既に警察(ヴァランタン)に尾行されていることもフランボウに告げるのだった。
作品としては状況の描写が無駄に詳しく、先述の通り哲学的な記述も多いので古典らしい読みづらさを感じます。また、ブラウン神父に関しても本作品の段階ではまだキャラクター設定や魅力が確立されていない印象を受けます。
尾行中に相手を見失ったら10分以内に再度補足しなければならない
以下に最も印象に残った箇所を引用します。ヴァランタンがブラウン神父とフランボウを尾行する場面です。
しかし、突然傾斜地になっている、深い藪の茂みの中に来たときに、探偵等は全く二人の姿を見失ってしまった。それから再び彼らを見出すまでには十分間以上も苦しまなければならなかった。
パリ警察の名探偵のヴァランタンの尾行が失敗する描写です。物語の展開からすると、この描写は無くても問題がありません。しかし、ヴァランタンが尾行に失敗する描写をあえて差し込む点が探偵として好感を持ちます。
特に「10分間」という数字が絶妙で、実際の尾行においてもターゲットを見失ってから10分間見つけられない場合、それ以降、発見できる可能性は絶望的に低くなります。ですから、見失ってから10分間は本気で探します。
尚、その後、フランボウは改心してブラウン神父の相棒になるのですが、それは以降の作品で紹介したいと思います。