足跡で何が分かるか
こんにちは。管理人のエスポワールです。今回はコナン・ドイルのボスコム谷の惨劇を紹介します。
本作品においてホームズは現場に残された足跡だけで犯人を割り出しています。足跡を有力な手掛かりとして犯人を導く手法はホームズの得意技で、以前紹介した「緋色の研究」でも足跡を重要な手掛かりとして活用しています。
また、現代においても事件現場に残された足跡は重要な化学分析の対象になっており、残された足跡から、
- 靴の種類
- 持ち主の身長・性別
- 歩いていたか・走っていたか、その方角
がある程度明確になります。
そして、足跡についていた土や砂と容疑者の靴底に付着している土や砂が一致すれば、「容疑者は確実に現場にいた」という証拠にもなります。
さらに、「アスファルトやブロックやカーペットの上では足跡なんて残らない」と思う方も多いと思うのですが、現代では肉眼では確認できない足跡も高度な調査により、ある程度足跡が明確になるそうです。もちろん、探偵事務所ではここまではできません。
また、警察用語では足跡を「あしあと」ではなく「そくせき」と読みます。
殺された父親との口論は認めたが殺害は拒否する息子
それでは本作品のあらすじを紹介します。
ある朝、ワトスンが朝食を食べているとホームズから「ボスコム谷の殺人事件に関して警察から招へいを受けたので一緒に調査に行かないか」という電報を受け取る。依頼を快諾したワトスンはホームズと共にイングランド西部の田舎町、ロスへ向かった。
殺害現場であるボスコム谷はジョン・ターナー氏の所有する広大な農園のため池のほとりであった。殺されたチャールズ・マッカーシーは殺害直前に息子のジェームズ・マッカーシーと口論をしている様子を目撃されていた。当然、容疑者としてジェームズは殺人犯であることを疑われたが、口論した事実は認めたもの、殺害は否定していた。
「旅支度が早い」は探偵の得意技のひとつ
それでは、下記に最も印象に残った部分を引用します。
ホームズの事件現場への同行を求められた際のワトスンの描写です。
かつてのアフガニスタンでの軍隊経験は、すくなくともひとつだけは私にご利益をもたらしてくれていた。いつでも即応で旅支度がととのえられるということである。身の回りの品といっても、ごくわずか、まとめるのに手間はかからない。30分と言った、それよりももっと短い時間で、早くも旅行鞄をかかえて辻馬車ちゅうのひととなり、パディントン駅へと急いでいた。
この描写は現実の探偵というよりも、私自身によくあてはまります。実際の探偵の仕事は調査の現場まで直行直帰が基本になります。そして、現場がどこなのか、普通は前日の夜まで分からないというのが所属していた探偵事務所での慣習でした。そして、常に旅支度をする気持ちで出勤の準備をしています。つまり、泊まりの調査も覚悟のうえで家を出ています。しかも、日帰りでも泊りでも出勤の準備に10分もかかりません。
ただ、それでも毎日自分の部屋に帰れないストレスは大きく、「楽な調査だと思って家を出たけれど、他の調査現場に合流する事になり、結局仕事が終わったのは次の日の深夜だった、しかも、都内ではなく名古屋にいた」のような事もありました。当然、定時勤務という概念や、時間外手当や出張手当のようなものはありません。
「いろいろな場所に行ける」ということが探偵という職業の大きな魅力だと思いますが、そこに魅力を見いだせない人はこの仕事に向いていません。