仙台市在住作家、伊坂幸太郎
こんにちは。管理人のエスポワールです。今回は仙台市在住作家の伊坂幸太郎の作品から『グラスホッパー』を紹介します。
2012年頃、私は一度だけ仙台駅前のホテルの喫茶店で作者を目撃しています。そして、それ以来、一方的に親しみを感じている作家です。
実際の年齢よりも若く見える作者の容姿は特にファンでもなかった当時の私でも良く記憶しており、店内ですれ違った瞬間にすぐに分かりました。
私の隣の席で作者はノートパソコンで作業をしており、オーダーした飲み物にはあまり手を付けていない様子でした。
「探偵の私の横で推理小説を執筆中なのだろうか」などと当時思ったものでした。
押し屋を追う主人公、鈴木
それでは作品のあらすじを紹介します。
寺原に妻を殺された主人公、鈴木は寺原と寺原の父親が経営する会社に入社して復讐のタイミングをうかがっていた。しかし、寺原が何者かによって車道に押し出され、車にひかれる姿を目撃すると、現場から去っていく寺原を押した男(「押し屋」)を尾行し、住居の特定に成功する。
翌日、改めて押し屋の家を訪問した鈴木はそこで「槿(あさがお)」と名乗る男性とその妻、二人の子供の存在を確認する。しかし、鈴木にとってはあまりにも一般的な4人家族にしか思えない家の様子に、あさがおと名乗る男性が寺原を殺した人物であることに確信を持てずにいた。
また、対象者を自殺に追い込む殺し屋・鯨と、ナイフによる刺殺を得意とする蝉もそれぞれの思惑のもとで「押し屋」に近づいていく。
消えた「駅の券売機で切符を買う」という行為
それでは、本作品で最も印象に残った箇所を引用します。主人公の鈴木が駅の改札口付近で「押し屋」を尾行する場面です。
男が改札口に入っていくのを見て、(中略)券売機に急いだ。料金表を一瞥して、最も高そうな値段を確認してから、購入する。機械から、引きちぎるようにして乗車券を奪うと、改札をくぐった。
このように、押し屋がどこの駅で降車するか分からないので、尾行する鈴木は最も遠い駅まで行けることを想定した切符を券売機で購入しています。
これは東京都内でSuicaやPASMOといったIC乗車券が普及する以前の非常に懐かしい状況の描写です。
この描写のように、IC乗車券が普及する以前は、探偵の電車の尾行では「最も遠い行き先」を想定して券売機で切符を買い、定期券でノンストップで改札を通過する尾行対象者を追っていたのです。
これは私が探偵になる10年以上も前の話です。具体的にはSuicaが誕生したのが2001年ですが、首都圏でSuicaが感覚的に当たり前になったのは2000年代中盤以降です。
ですから、当時の探偵は切符を購入するたびに財布の中から2000円ほどなくなっていったのです。
つまり、IC乗車券の登場によって探偵の尾行にかかる経費が下がり、そして、券売機で切符を買う時間が無くなったことにより尾行の失敗が大幅に減ったのです。