「ハサミ男が男性」という誤認誘導がテーマの叙述トリックーハサミ男:殊能将之ー

覆面作家・殊能将之が亡くなっていた

こんにちは。管理人のエスポワールです。今回は叙述トリックの名作としてしばしば作品名が上がる「ハサミ男:殊能将之」がテーマです。本作品は1999年発表の作品で個人的には15年ぶりの再読となりました。再読する際、本作品について覚えていたことは「ハサミ男が女性であること」だけでした。

作者である殊能将之が2008年に亡くなっていたことを今頃になって知ったことが再読のきっかけでした。49歳で亡くなったということで、年齢的には若すぎる点が気になるのですが、覆面作家でもあった作者の作品以外の部分についてはほとんど情報はありません。

覆面作家とはいわゆる年齢や出身地や学歴或いは職歴などがほとんど明らかになっていない作家のことで、ペンネームではなく本名で活動している場合でも覆面作家となります。最近では作家の西尾維新さんや歯学部の学生であること以外なにも分かっていなかった音楽家のGReeeeNさんが覆面作家として有名です。

凶器にハサミを使用した連続殺人事件

それでは作品のあらすじを紹介します。

本作品の舞台は2003年の東京。当時、凶器にハサミを使用した女子高生連続殺人事件が発生しており、その残虐性からマスコミが犯人を「ハサミ男」と命名した。そんなハサミ男による殺人事件をマスコミが取り上げなくなった晩秋の頃、3件目の事件が発生する。

ハサミ男は3人目のターゲットを選び出し、ターゲットとなった樽宮由紀子の通学経路や帰宅時間などの事前調査を行っていた。ある日、ハサミ男が犯行を実行しようと由紀子の自宅付近で待ち伏せするも、由紀子は現れなかった。その日の犯行は諦めて帰宅しようとしたハサミ男だったが、近所の公園でのどをハサミで深く刺されて殺害された由紀子を発見するのだった。

自身が殺害するつもりであった由紀子の遺体を見てハサミ男は激しく動揺する。そんなとき、公園の入口から人が近づいてくるのが見えた。ハサミ男は由紀子を殺してはいない。したがって、この場からすぐに逃げなければならない理由は全くない。ハサミ男は「人が死んでいる」と大声で叫んだことにより由紀子の遺体の第一発見者となってしまった。警察は発見者の持ち物を調べることはないだろうが、ハサミ男が凶器として使用つもりであったハサミをカバンに入れていたことは非常に危険だった。ハサミ男は茂みの中にハサミを投げ込んだ。警察による事情聴取が深夜まで続いたが、ハサミ男は樽宮由紀子を知っていたこと、ハサミを捨てたこと以外の全て正直に話してその日は解放された。

ハサミ男は由紀子を殺害したのはだれか、なぜ殺害したのかを知るべく調査を開始した。

作品序盤のハサミ男の心理描写と状況設定が素晴らしいです。ストーリーに伏線らしき描写や気になる点が散見されるものの、全体として文章的に文章が自然に読める感じで、無駄や無理がありません。

本当の探偵は探偵小説を読まない

以下に本作品で最も印象に残った個所を引用します。若手刑事の磯部が本庁の刑事に「趣味は何か」と聞いた場面です。

「読書です」と、磯部は答えた。

「へえ、どんな本が好きなんだ?」

「ミステリ」が好きです。

そう答えると、本庁の刑事は鼻で笑って、「よく推理小説なんか読めるな。嘘ばかり書いてあるじゃないか。本物の犯罪捜査に携わっているのに、あんなでたらめ読んでおもしろいかい?参考にならんだろう」

確かにその通りです。本当の探偵は探偵小説を読みません。理由は、まさしくセリフにある通りで、「リアルで個人の行動調査に携わっているのに、わざわざフィクションを読んでも面白くない」からです。つまり、「面白いフィクションよりもつまらないリアルの方が楽しい」という感覚です。

また、私が推理小説を読んでいた時期は学生の頃とほとんど探偵業を引退した最近です。そして、特に探偵事務所に所属していたころは読書をする暇がないほどに働いていたので、本や雑誌を買うという習慣がそもそもなかったのです。

また、セリフにもあるようにいくら推理小説を読み込んでも、実際の探偵の仕事には全く役に立ちません。探偵に必要な素養は張り込みと尾行をするための体力と集中力と退屈に耐える忍耐力です。学歴や謎解きの素養は必要ありません。

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