新人探偵が旅行案件で鳥取へ行く
こんにちは。管理人のエスポワールです。今回は山村美紗(1934-1996)の作品、『鳥取旅行の罠(1993)』を紹介します。
こちらの作品は探偵事務所の調査員、片山由美を主人公とする、短編作品集『十二秒の誤算』に納められた第二話になります。由美は京都の探偵事務所に勤務する入社数ヶ月の新人探偵で、題名にある通り今回の作品の舞台が鳥取になります。
旅行案件では同じホテルの同じ部屋に浮気相手と宿泊することが大事
それでは作品のあらすじを紹介します。
主人公の片山由美は妻の成田千津子の依頼を受け、夫であるフリーカメラマンの成田恵一の鳥取出張中の行動を調査していく。由美は無事に恵一と不倫相手の林田ゆかりが接触しているところを確認し、彼等と行動を共にする。ところが、調査後に鳥取から京都に戻り、妻の千津子に調査を報告する直前に妻の千津子の死体が自宅で発見される。千津子の死亡推定時刻は由美が恵一、ゆかりらと夕食を共にした後の時間帯で、由美が恵一の部屋を監視し、まさしく恵一が部屋から出ていないことを確認していた時間帯での出来事であった。
本作品と同様、探偵事務所の調査員の仕事をしていると、旅行案件といった形で、調査対象者を尾行しながら対象者とともに旅行をするという機会に恵まれることがあります。つまり、結果として経費で様々な場所に行くことができるのも探偵の仕事の特徴です。
その他、旅行案件の良い点は、調査対象者が浮気相手や観光に夢中になりやすく、探偵の存在にほとんど気付かないことが多いという点に加え、観光地を歩く場合にカメラを堂々と出して撮影しても不自然にならないという点です。
また、宿泊先のホテルが事前に分かっている場合、尾行対象者を見失ってもホテルで待ち構えることで、必ずホテルでの2ショットを撮影できるというメリットがあります。しかし、大事なことはラブホテル以外のホテルの場合、同じ部屋に宿泊することをカメラに収めなければならないという点が肝になります。
本作品では調査対象者の成田恵一は不倫相手の林田ゆかりを自分の部屋の隣に宿泊させました。この場合、浮気の証拠としては弱く、旅行先に来てまで同じ部屋に泊まらないという関係を証明することになりました。
私の同一地点での長時間連続張り込みはホテルの駐車場
下記に印象に残った箇所を引用します。調査員の由美が成田たちと同じホテルにチェックインした場面です。
一緒にホテルにチェックインすると、うまいことに、成田とは向かい側の部屋だった。もし、違う階だとか、離れた部屋の場合は、所長がもう一部屋近くの部屋をとってもいいということだったが、二人一緒だったので、ホテルが気をきかせたらしい。
こちらの状況描写は、探偵が旅行案件のホテルで最も気にするところです。ここでは、調査対象者の宿泊する部屋が自分の宿泊する部屋から視認できるかどうかが非常に重要なのです。つまり、自分の部屋から怪しまれずに調査対象者の部屋の出入りをカメラで撮影できるかどうかで、調査員の肉体的・精神的負担が全く異なるのです。
本作品の場合、調査対象者の向かいの部屋に宿泊できたことは条件としては最高のパターンです。調査対象者の部屋の出入りをドアを少し開けた状態で常に監視できることに加え、超至近距離なので出入りを見落とすことがないのです。
もし、宿泊したフロアが異なる場合、調査対象者の出入りをフロントで監視する。もしくは、ホテルの出入り口で監視しなければならないのです。もちろん、フロントで監視できればそれでよいのですが、フロントがよほど広くない限り、ホテルのスタッフに怪しまれてしまいます。また、ホテルの出入り口を監視する場合、出入口を全て押さえなければならず、状況によっては小さい出入口・裏側出口を捨てることになります。当然、このような状況になってしまった場合、ホテルの部屋のベッドで眠ることが出来ず、延々と張込みを続けることになります。
ちなみに私の同一地点での連続張り込みの最長記録も旅行案件でした。その時も残念ながら調査対象者と同じフロアに宿泊することができずに、ホテル敷地内駐車場で15時間対象者が出てくるのを張り込んだのでした。