密室殺人を分類化した 「三つの棺」17章の密室講義
こんにちは。管理人のエスポワールです。今回はジョン・ディクスン・カーの代表作「三つの棺」17章の密室講義を紹介します。
まず、作者のジョン・ディクスン・カー(1906-1977)は密室殺人を扱った推理小説作家として知られています。ただ、本作品の17章において、
探偵小説では密室を扱うものが格段に興味深いと私が言えば、それはただの偏愛だ。
とあるので、周囲の評価ほど本人は密室殺人に強いこだわりはないのかもしれません。
作品全体はかなり読みづらい
「三つの棺」 全体の感想は、一言で言うと「苦痛」。文章が非常に読みづらく、ストレスが溜まる読書になりました。本来の文章を忠実に訳した結果なのかもしれませんが、このようなストレスはこの時代の外国文学に共通するものではないでしょうか。アウェーの洗礼のようなものだと思ってページをめくり続けます。
ただ、それでも本作品の17章に関しては他の推理小説にもしばしば引用されるので、作品をもう一度腰を据えて読むのも有意義ではないかと思い、作品を久しぶりに読んでみました。
探偵小説で”密室”として知られる名高い状況の一般的な仕掛けと発展形態について
それでは17章の密室講義における、「探偵小説で”密室”として知られる名高い状況の一般的な仕掛けと発展形態について」をまとめます。
- 室内に殺人犯が居なかった場合
- 殺人ではないが、偶然が重なって生じた事態が、あたかも殺人のように見えるもの
- 殺人だが、犠牲者が自殺に追いやられるか、何らかの偶発事故で死ぬもの
- 殺人であり、あらかじめ部屋に持ち込まれ、無害に見える家具の中にひそかに隠されていた機械装置で殺されるもの
- 自殺だが、殺人のように見せかけるもの
- 殺人で、めくらましとなりすましから謎を生み出すもの(生きていると見せかけてすでに死んでいる)
- 殺人で、犯行時に部屋の外にいた誰かがやったにもかかわらず、中にいたものがやったはずだと思われるもの
- 殺人で、第5項と全く逆の効果を用いるもの(死んでいると見せかけて実は生きている)
- 室内に殺人犯が居て、ドアのカギを内側から掛けたように見せかける場合
- まだ錠の中に入っている鍵に細工する(鍵に糸を結び付けるなど)
- 鍵やスライド錠はいじらずに、たんにドアの蝶番をはずす
- スライド錠に細工する(ボルトに糸を結び付けるなど)
- 掛け金に細工する(氷の塊を掛け金の下に入れておき、氷が解けた時に掛け金が下りる仕組み)
- 単純だが効果的な錯覚を使う(外から施錠し糸を使って鍵を中に戻すなど)
以上です。
言われてみればなるほどと思うトリックの分類なのですが、当然、カー以外の作家は自分のトリックがカーに分類されるようなトリックを嫌います。
そして、カーの密室講義に分類されないトリックの作成に苦しむこととなるのです 。
仮に作品がつまらなくなっても、犯行を実行しそうな人物ではなく、犯行が可能な人物を追いかける
本作品の17章の最も印象に残った箇所を引用します。
犯人の特定のアプローチの仕方について語っている箇所です。
結果が魔法のようだと、原因も魔法のようなものだという期待が高まる。
それが魔法でなかったことがわかると、くだらないと一蹴する。
これはどう見ても公平ではないね。
殺人者の一貫性のない行動については、決して文句を言ってはならない。
全体の判断基準は、そうすることが可能かどうかだ。
可能であるのなら、実際にそうするかどうかは問うてはならない。
作者によれば、「犯行が可能な人物が犯人であって、犯行が不可能だが、犯行を実行しそうな人物を追いかけてはいけない。仮にそのことによって、作品がつまらない物語になったとしても」ということになります。
また、実際の探偵の世界では殺人事件を目の当たりにすることはありません。しかし、私はほとんど関与したことはありませんが、人探しの依頼において捜索対象者が遺体で見つかるといったことはたまにあります。