ワトソンによれば「今後も永久に謎として残る話」
こんにちは。管理人のエスポワールです。今回はコナン・ドイルの五つのオレンジの種を紹介します。
本作品の特徴は依頼人の死、そして、事件の犯人と思われる人物が海難による事故死という結末となり、犯人の動機の詳細や殺害手法などが明らかになりません。
また、犯人の乗船していた船の経路を一日がかりで追っていたという記述はあるものの、ホームズが事件の現場に行くようなこともありません。いわゆる「安楽椅子探偵」の作品になっています。
安楽椅子探偵については以前にも紹介しています。
アメリカンの秘密結社「クー・クラックス・クラン(KKK)」とは
それでは作品のあらすじを紹介します。
ロンドンに酷い嵐が吹き荒れる中、ジョン・オープンショーという男が訪ねてくる。
以前、彼の叔父がKKKの文字と5つのオレンジの種が入った手紙を受け取りひどく狼狽する。その後、叔父は2か月後に自殺のような状況で亡くなった。その後、叔父の遺産を受け継いだ父も同様にKKKの文字と5つのオレンジの種が入った手紙を受け取った後、不自然な死を遂げる。
そんな叔父と父の死を目の当たりにしたジョン・オープンショーはついに自分にもそんな殺害予告ともとれる手紙を受け取り、ホームズを訪ねてきたのだった。
そんなジョンに対してホームズは差出人の指示通り、「書類を日時計の上に置け」とアドバイスをするものの、翌朝の新聞にはジョン・オープンショーが自宅までの帰宅途中で殺害されてしまうという記事を発見してしまう。
本作品における「KKK」とは「クー・クラックス・クラン」というアメリカで当時実際に存在していた政治結社のことで、白人至上主義を標榜しています。「クー・クラックス・クラン」というイントネーションも現代英語っぽくなく、当時の社会情勢をある程度知らないと少し読みにくい作品ともいえます。
失敗した過去を認めるホームズ
続いて作品の中から最も印象に残った個所を引用します。
ジョン・オープンショーがホームズに状況を説明していた際に「あなた(ホームズ)に相談すれば解決できない問題なんてないはずです」と言ったことに対して返したセリフです。
「いえ、4回しくじっていますー3度は男に、1度は女性にだしぬかれました」
このように、ホームズは過去の失敗を割とあっさりと認めています。
過去にホームズを出し抜いた女性の話はこちらです。
探偵というと物語のホームズのように頭脳明晰で完璧な印象を持たれてしまうことが多いです。
しかし、本来探偵は失敗します。調査は失敗と共にあり、失敗の数が経験となります。「失敗しない」という探偵事務所は詐欺です。
「探偵学校出身者だから失敗しない」も嘘。「警察・自衛隊出身だから失敗しない」も嘘。「ベテランだから失敗しない」も嘘です。
そして、もし「私たちの探偵事務所は優秀な探偵が揃っていますが、優秀な探偵でも調査に失敗することがあります」と明言するような探偵事務所があるならば信用してもいいと思います。
調査の数をこなせばこなすほど失敗の数が増えていく、そして、失敗の原因が運や巡り合わせ、事故のような理不尽なものが多いことも経験しているからです。
そしてなにより「嘘をつかない」という姿勢が素晴らしいです。
「調査力」よりも「嘘をつかない信頼性」のほうが探偵の世界では大事なのです。