優れた捜査は想像力に支配されてはいけない-スタイルズ荘の怪事件:アガサ・クリスティー-

7歳まで文字の読み書きができなかった幼少期

こんにちは。管理人のエスポワールです。今回はアガサ・クリスティのデビュー作にして、名探偵エルキュール・ポアロの初登場作品の「スタイルズ荘の怪事件」を紹介します。

作者の発表した多くの推理小説はベストセラーとなり、世界で最も翻訳された作家ととしてギネスに認定されています。

しかし、作者は母親の教育方針から学校での正規の教育を受けることなく、母親から直接教育を受ける幼少時代を過ごしました。そして、母親の「7歳になるまでは字が書けないほうが良い」という考えから、作者は一般の子供よりも読み書きの能力開発が遅れました。また、学校への入学を許されなかった幼少期の作者は使用人やメイドと遊び、父親の書斎で読書に没頭しました。
ただ、作者自身は自らが受けた教育に対して不満はなかったとのことでした。

あえて一度逮捕されにいくという犯人の策略

それでは作品のあらすじを紹介します。

作品の舞台は第一次世界大戦中のイギリス。物語の語り手であるヘイスティングスは戦争で負傷し、療養の為、旧友のジョンの招きでスタイルズ荘を訪れる。スタイルズ荘の女主人のエミリーはジョンの義理の母親であり、20歳年下のアルフレッドと再婚している。エミリーは発作を起こして死亡してしまうのだが、その死亡の原因や死亡した当時の状況には不可解な点が多く、ヘイスティングスは旧友のポアロに事件の解決を依頼する。そして、事件の捜査を進めていく中で、スタイルズ荘に住む人々の複雑な人間関係が明らかになっていく。

結局、事件の犯人は物語の当初から怪しいポジションにいたアルフレッド。アルフレッドは不利な証拠が多くそろう状況で一度は逮捕されるも、決定的なアリバイを用意して解放される。
しかし、そのやり方は「一度無罪放免になると同じ罪で二度と裁判にかけられることがない」という法律を背景に仕組んだアルフレッドの策略であった。

ポアロの標榜する理詰めでのアプローチ「想像力はよき下僕だが、主人には不向き」

以下に本作品から最も印象に残った個所を引用します。
ヘイスティングスが旧友のポアロに対してこのように評しています。

(ポワロは)すぐれた犯罪捜査とは理論的な方法の問題にすぎないとよく言っていました。
わたしのやり方は彼の方法にもとづいています。もちろん、自分なりの改良は加えましたが。小柄な変わった男ですが、とびきりのダンディーで、すばらしく頭が切れるんです。

次は誤った推測をしたヘイスティングスに対してポアロがアドバイスをした場面です。

「想像力を働かせすぎるんですよ。想像力はよき下僕だが、主人には不向きだ。
もっとも単純な説明が、いつでもたいてい当たっているんです」

このように、直観よりも理論的なアプローチを好むあたりが探偵っぽいのですが、本作品をみる限り、結論に向かって直線的というよりも、トライアンドエラーを繰り返しながら真実に迫っている印象を持ちます。また、期待するような証拠が出てこないときは明らかに不満な様子を見せるなど、本人が思っているほど読む側は理論的に感じない点も興味深いです。

今後、作者の他の作品も随時紹介していきます。

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